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日本でもヨガを実践することが一般的になってきた今、ヨガのエクササイズ的な要素以外である、心や思考に作用する「ヨガの教え」に興味を持つ方も増えています。

この連載では、ヨガの教え=ヨガ哲学を体系的に学べる『ヨーガスートラ』を、ヨガインストラクター養成校の講師・インストラクターたちが解説していきます。

人生には悩みや苦しみがつきものだと、語られます

私も、大小あれど人生の中で色々な悩みや苦しみを経験してきました。

その悩みの種類は十人十色で千差万別です。悩みは数え切れないくらいあるように思えますが、「【連載】第11回やさしく学ぶヨーガスートラ:私たちを悩ませる苦しみとは」でご紹介した通り、ヨーガスートラでは苦悩の根本原因は5つしかないと、教えられています。

では、この苦悩の根本原因とされる5つとは、どのようなものでしょうか?

【苦悩の根本原因とされる5つ】

(1)アヴィッディヤー:真実に対する無知
(2)アスミター:自分のこだわり・自意識の高さ
(3)ラーガ:強い欲望
(4)ドヴェーシャ:激しい嫌悪
(5)アビニヴェーシャハ:死への恐れ

この教えには順番にも意味があり、一番はじめに「(1)アヴィッディヤー:真実に対する無知」があるのは、他の全ての苦しみを生み出す根源だからです。

さて、私たちは何を知らないのでしょうか

今回は1番目の【真実に対する無知】についてヨーガスートラの一節を読み解いていきましょう。

第2章5節
アニッティヤ・アシュチ・ドゥッカ・アナートマス・
ニッティヤ・シュチ・スカートマ・キャーティヒ アヴィッディヤー
変化するもの、汚れるもの、苦痛、真実でないものに、変化せず清浄で、幸せの意味であり、変わることのない真実の自分を重ねて、本当の自分を勘違してしまうことがアヴィッディヤー(無知)です。

ヨーガ・スートラ(やさしく学ぶYOGA哲学ヨーガ・スートラ参照)

「ある」ことを知らない

皆さん、こんな経験はありませんか?

「メガネがない!どこにいったの!どうしよう!」と少しパニックになりながら探していた時、「メガネなら頭にのっかってるよ。」と言われました。

あ…一旦メガネを外して頭にかけておいたことをすっかり忘れていた。

思い出した瞬間、さっきまで悩みの中にいたのが、「なーんだ、ここにあったんだ」と拍子抜けするくらいホッとした。

似たような体験は誰しもあるのではないでしょうか?

メガネが頭にのっていることを知っていたら「メガネがない!」と悩む必要はありません。

ヨーガスートラの語られる「無知」とは「すでにある真実を知らない」という意味です。そして、この無知が様々な苦悩を生み出しているのだと教えてくれます。

さて、この「真実」とは、何のことでしょうか?

あなたは苦悩に染まることなど「ない」存在

「【連載】第9回やさしく学ぶヨーガスートラ:本当の自分は、自分の中心にある」では、本当の自分は水晶のように常にクリアで穏やかな存在と教えてくれています。

そして、その透明な光は、無色透明でなく、実は虹色が含んでいるのです。

つまり、クリアな水晶というのは、「何もない状態」でなく、虹色を宿した光のように全てを含み、すでにいろんな色があり、いろんな色で満たされた「ある状態」と言い換えることができます。

ほとんどの方が「私の本質は、水晶のようにクリアで全てが満たされているなんて!?」と、感じられたかもしれません。

そう、すでにある、満たされた状態であることを知らないことが、「アヴィッディヤー:真実に対する無知」であり「本当の自分を知らない」ということなのです。

なぜ本当の自分を知らないのか?

水晶は透明。水晶の向こう側に物を置くと、その色を映し出し完全に染まったかのように見えます。

あくまで色を映し出しているだけであって、水晶自体が何かの色に染まることは決してないのですが、私たちは映し出された色の方に気を取られてしまいがちです。

また、もともと持っていた、虹色ですら見えなくなります。

心も同じように色々変化をします。

例えば、仕事で失敗したら、絶望の色を映し、嫌味を言われたら怒りや悲しみの色、他人と比べては嫉妬やエゴの色を、喜ばしいことがあれば、嬉しい色、愛くるしいものを見たり、愛にふれたら、愛の色を映し出す。

それは、水晶に映し出された世界だということを知っていないと、コロコロと変化する心の色をまるで本当の自分自身かのように感じます。

そして、一つの色に占領されている時、他の色はまるで「ない」ように感じます。

自分にとって悦ばしい色が映し出されている時は、「ない状態」にあまり気づかず、それ以外のことがやってくると、私たちは「ない色」に覆われ、いつも「足りない」という感覚を抱えてもいるのです。

私たちは「メガネがない!」とパニックに陥っている時のように、ついつい心に巻き込まれて、すでにあることに気づけない状態になりがちなのです。

あなたの中に答えはある

望まないことや、ネガティブな心の色に巻き込まれそうになったら「私はクリアで、すでに満たされた存在。それに、私は気づいていなかったんだ!」と思い出してみてください。

「私なんて、のろまでダメだ」と思っていたけど「丁寧に物事に取り組むタイプ」なのかもしれない。

「子供に怒ってばかりでダメな自分」と自分を責めていたけど「それくらい頑張りすぎていたのかも」と、すでに備わっている自分の魅力や頑張りに気づけるかもしれません。

頭にのっているメガネを自分の外側に探している間は、ずっと悩みの中ですが、自分のことをよく観察したらメガネが頭にのっていることに気づけます。

その瞬間「なーんだ、ここにあったんだ」とパッと悩みから解放されますよね。

これと同じように、自分らしく幸せに生きるための材料は最初からあなたの中に備わっているのです。

本当のあなたは常に穏やかでクリアな存在
問題にぶち当たった時も、少し距離を置いて深呼吸
落ち着きを取り戻して、乗り越えるための答えは必ず自分の中にある

無条件にそんな信頼を自分に持ってみてください。
常に苦しみは自分を成長させてくれる可能性の宝庫にも思えてくるかもしれません。

あなたはどんな苦しみも、乗り越えていける存在。
それを知らなかった、ただそれだけなのだとヨーガスートラは教えてくれています。

ヨーガスートラで語られていることは、実はとってもシンプルなのです。自分を悩ませる苦しみから距離を置きたい時は、まずそれを「知る」ことで良い策がみつかりそうですよね。

【連載】第1回やさしく学ぶヨーガスートラ:「今」に意識を置くということ

【連載】第12回やさしく学ぶヨーガスートラ:4つの悩みの現れ方

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